安心して終末期を考えるために:人生会議(ACP)の始め方と話し合いのポイント
終末期医療について考え始める時、多くの方が「何から手をつければ良いのだろう」「家族に負担をかけたくないけれど、どう伝えれば良いのだろう」といった不安を感じることがあるのではないでしょうか。漠然とした不安がある中で、ご自身のこれからのことについて整理し、大切な方々と希望を共有する準備を進めることは、心のゆとりにもつながります。
この記事では、ご自身の終末期を安心して迎えるための「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」について、その始め方から家族との話し合いのポイントまでを分かりやすくご説明します。
人生会議(ACP)とは何か:大切な思いを伝えるための話し合い
「人生会議(ACP)」とは、厚生労働省が普及を推進している言葉で、もしもの時に備えて、ご自身の望む医療やケアについて前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取り組みのことです。これは、特定の医療処置について一度だけ決めるものではなく、人生の価値観や大切にしたいことを含め、変化するご自身の状況に合わせて何度も考え、話し合いを深めていくプロセスを指します。
人生会議を行う目的は、ご自身の意思が尊重された形で医療やケアを受けられるようにすることです。そして、ご自身の思いを家族と共有しておくことで、もしもの時、家族が難しい選択を迫られる精神的な負担を軽減することにもつながります。
人生会議を始める前の準備:ご自身の気持ちを整理する第一歩
ご自身の終末期について考えることは、決して簡単なことではありません。しかし、今できることから少しずつ、ご自身の気持ちを整理していくことが大切です。まずは、ご自身の内面に目を向け、どんなことを大切にしたいのか、考えてみることから始めましょう。
例えば、次のような問いについて、メモを取る形で考えてみてください。
- どのような医療やケアを受けたいと望みますか。
- どのような場所で最期を迎えたいですか(自宅、病院、施設など)。
- ご自身の病状が悪化した場合、家族にはどのようなことを知っておいてほしいですか。
- 生きていく上で、最も大切にしたいことは何でしょうか。
これらの問いは、現時点でのご自身の考えを整理するためのものです。時間が経てば考えが変わることもありますので、完璧に答えを出す必要はありません。少しずつ、ご自身のペースで向き合ってみてください。
家族との話し合いのポイント:穏やかに、焦らず進めるために
ご自身の気持ちが少し整理できたら、次に大切なのは、その思いを家族に伝えることです。しかし、どのように切り出せば良いのか、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。家族との話し合いを穏やかに、そして実りあるものにするためのポイントをいくつかご紹介します。
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話し始めるタイミングを見つける 特別なきっかけがなくても、日常の会話の中で、「最近、友人の話を聞いて、もしもの時のことを少し考えてみたのだけれど…」といった形で切り出すことも有効です。食事中や散歩中など、リラックスできる時間を選ぶと良いでしょう。
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感謝の気持ちから伝える 「いつもありがとう。もしも私が急に意思表示できなくなった時、あなたたちに余計な心配や負担をかけたくないと思って、少し考えてみたのだけれど…」のように、家族への感謝や配慮の気持ちを最初に伝えると、家族も安心して耳を傾けやすくなります。
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「相談」という姿勢で臨む 一方的に自分の考えを押し付けるのではなく、「私の気持ちはこうだけれど、あなたはどう思う?」と、家族の意見も尊重する姿勢が大切です。家族が「分かった」とすぐに納得しなくても、それは自然なことです。何度も話し合う機会を持つつもりで、焦らず進めましょう。
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一度で全てを決めようとしない 人生会議は一度行ったら終わりというものではありません。人の気持ちや状況は常に変化します。今日の話し合いはあくまで「第一歩」と捉え、定期的に見直したり、話し合ったりする機会を設けることが望ましいです。
専門家や公的な相談窓口の活用も選択肢に
ご自身やご家族だけで話し合うのが難しいと感じた場合や、より具体的な情報を知りたい場合には、専門家や公的な相談窓口を活用することも有効な選択肢です。
- かかりつけ医: ご自身の健康状態をよく知るかかりつけ医は、医療に関する具体的な質問に答えてくれる頼れる存在です。
- 医療ソーシャルワーカー: 病院の相談室などにいる医療ソーシャルワーカーは、医療や介護に関する情報提供、経済的な相談、制度利用のサポートなど、多岐にわたる相談に応じてくれます。
- 地域包括支援センター: お住まいの地域の高齢者の生活を支える総合的な相談窓口です。介護や医療、福祉に関する情報提供や関係機関との連携支援を行っています。
これらの専門家や窓口は、ご自身の状況に合わせた具体的なアドバイスを提供し、話し合いのサポート役となってくれることでしょう。
まとめ:今できることから、少しずつ
終末期医療や人生会議について考えることは、誰にとっても勇気のいることです。しかし、ご自身の思いを整理し、大切なご家族と共有しておくことは、もしもの時の安心につながり、ご家族の負担を軽減する大きな支えとなります。
「何から始めれば良いか分からない」と感じていた方も、この記事を通じて、ご自身の気持ちを整理する第一歩を踏み出し、ご家族との穏やかな話し合いを始めるきっかけを見つけていただけたら幸いです。完璧を目指すのではなく、今できることから、少しずつ始めてみませんか。