終末期医療を知る・考える

もしもの時に備える意思表示:尊厳死宣言書とリビング・ウィルを知る

Tags: 尊厳死宣言書, リビング・ウィル, 事前指示書, 終末期医療, 意思表示

終末期医療について考え始めることは、ご自身の人生をより豊かに、そして安心して過ごすための大切な一歩です。しかし、いざ「もしもの時」について考えようとすると、漠然とした不安を感じたり、何から手をつければ良いのか迷われたりすることもあるかもしれません。

ご自身の希望を明確にし、それを家族や医療関係者に伝えることは、将来の不不安を和らげ、ご自身の尊厳を守ることにつながります。そして、これはご家族にとっても、意思決定の大きな助けとなり、負担を軽減することにもつながります。

この記事では、終末期におけるご自身の意思を「書面」で残す代表的な方法である「尊厳死宣言書」と「リビング・ウィル」について、その内容や違い、そして作成のヒントを分かりやすく解説いたします。

尊厳死宣言書とは

尊厳死宣言書とは、ご自身が回復不可能な末期状態に陥り、延命治療によってただ生命が維持されるだけの状態になった場合に、人工的な延命措置を拒否し、自然な死を迎えたいという意思を表明する書面です。

主な内容 * 回復不能な末期状態になった際の延命治療の拒否 * 苦痛を和らげる緩和ケアは希望する旨 * 医療関係者に対する、宣言書の尊重を求める意思表示 * 家族への同意と理解を求める意思表示

尊厳死宣言書は、法的拘束力があるとは一概には言えませんが、ご本人の明確な意思表示として、医療現場での判断に大きな影響を与えます。特に公正証書として作成することで、その証拠能力や信頼性が高まります。

リビング・ウィルとは

リビング・ウィルもまた、終末期医療におけるご自身の意思を事前に表明する書面ですが、尊厳死宣言書よりも広い範囲での医療に関する希望を盛り込むことができます。「生前の意思」という意味合いで使われることが多いです。

主な内容 * 回復不能な末期状態になった際の延命治療の拒否(尊厳死宣言書と同様) * どのような場所で最期を迎えたいか(自宅、病院、ホスピスなど) * どのような医療を受けたいか、あるいは受けたくないか(例:人工呼吸器、胃ろう、輸血など具体的な医療行為について) * 痛みや苦痛の管理に関する希望 * 臓器提供の意思 * ご自身の財産の管理や死後の葬儀に関する希望の一部

リビング・ウィルは、特定の書式が定められているわけではなく、ご自身で自由に作成することができます。そのため、より柔軟にご自身の価値観や希望を詳細に記載できる点が特徴です。ただし、作成する際には、その内容が不明瞭にならないよう、具体的に記載することが重要です。

尊厳死宣言書とリビング・ウィルの違い

両者は、ご自身の終末期における意思を事前に表明するという点では共通していますが、以下のような違いがあります。

| 項目 | 尊厳死宣言書 | リビング・ウィル | | :----------- | :--------------------------------------------------- | :------------------------------------------------------ | | 主な目的 | 延命治療の拒否と自然な死の希望 | 広範な医療に関する希望や生き方・逝き方の希望の表明 | | 書式 | 公正証書での作成が推奨される(証拠能力が高い) | 特定の書式はなく、自由な記述が可能(一般的な事前指示書) | | 法的性質 | 法的拘束力は限定的だが、強い意思表示として扱われる | 同上。書面の内容の具体性や周知が重要 |

どちらもご自身の意思を明確に伝えるための大切な手段ですが、延命治療の拒否に特化した強い意思表示を望む場合は尊厳死宣言書を、より広範なご自身の希望を詳細に伝えたい場合はリビング・ウィルを選ぶ、あるいは両方を補完的に活用するという考え方もあります。

ご自身の意思を書面で残すためのヒント

  1. ご自身の価値観を整理する

    • どのような状態になったら延命治療を望まないか、どのような生活を最期まで送りたいかなど、ご自身の心と向き合い、具体的な希望を書き出してみましょう。
    • 「人生会議(ACP)」の考え方を取り入れ、ご自身の価値観や希望を家族と共有する機会を持つことも非常に有効です。
  2. ご家族と話し合う

    • 書面を作成する前に、ご家族と十分に話し合い、ご自身の考えを伝え、理解を得ておくことが何よりも大切です。
    • ご家族がご自身の意思を知っていれば、いざという時に迷わず、希望に沿った選択ができるようになります。
  3. 具体的な内容を記述する

    • あいまいな表現は避け、具体的な医療行為や状況について明確に記載しましょう。
    • 必要であれば、医師や看護師などの専門職に相談し、医療用語や治療法について確認することも役立ちます。
  4. 専門家への相談を検討する

    • 尊厳死宣言書を公正証書で作成する際には、公証役場での手続きが必要です。
    • 内容の相談や文案作成については、弁護士や行政書士といった法律の専門家にご相談いただけます。
    • また、医療ソーシャルワーカーや地域の相談窓口なども、情報提供やアドバイスをしてくれることがあります。
  5. 書面の保管と周知

    • 作成した書面は、ご自身だけでなく、ご家族や信頼できる人がすぐに確認できる場所に保管しましょう。
    • 写しを家族に渡したり、かかりつけ医にその存在を伝えたりするなど、いざという時に意思が伝わるように周知しておくことが重要です。
    • ご自身の意思は時間とともに変わることもありますので、定期的に見直し、必要であれば更新することも大切です。

まとめ

もしもの時に備え、ご自身の医療に関する意思を書面で残すことは、ご自身の尊厳を守り、ご家族の負担を軽減するための大切な準備です。尊厳死宣言書やリビング・ウィルは、そのための有効な手段となります。

完璧な書面を作成しようと気負う必要はありません。まずはご自身の心と向き合い、ご家族と話し合うことから始めてみてください。そして、ご自身のペースで一歩ずつ準備を進めていくことが、将来への安心感につながることでしょう。ご不明な点があれば、お一人で抱え込まずに、医療や法律の専門家に相談することもご検討ください。